どこまでもナチュラル

 

 前回に引き続き、味覚のレボリューションについて。食・味覚に関して保守的であったイタリア人がここ数年の中で他国の料理を受容し、また自国のものではカロリーオーバーな伝統的料理を見直し、より普段向きな調理法に変えたり、ふんだんに使っていた調味料の量を抑えてヘルシー志向になったりと確かな変化が見られます。

 外食産業といえば、日本のようにコンビニは存在しませんし中食といえばPizza Taglio屋が主流のまま、外食の選択技も大きく括ってイタリアンレストランとその他外国籍料理レストランに分けられ、日本人からすれば至って少なく感じます。家庭料理の材料の仕入先としては、相変わらず市場(メルカート)へ出かけるのを好み、BIO(有機)製品の普及は著しく、大手のスーパーもそんな庶民の心を掴むために食のトレンドを常にマーケティングしているようです。でもその方法といえば日本のマーケットのように常に新商品が販売され、広告に煽られて一部の料理やお菓子に注目し、流動的に出現・消失していってしまうというようなものでありません。インスタント食品などは、蚊帳の外のまま。やはり、各地の特産物を使った昔ながら料理が人気です。いったん、住む土地を変えると他の地では入手困難で作るのに手間のかかるものも多く、再現しにくいことから「スローフード」として価値を重んじられるのでしょう。同時に失われていってしまわないように、温故知新の自然食材から現代的な味覚を追求して新たな料理も生まれています。「四季折々の自然を食べる」と日本料理の真髄がありますが、保守的な嗜好から徐々に新しい味覚の発見をしつつ、体の科学にできるだけ逆らわず、ヘルシーに自然なものにこだわる。あっぱれ、イタリア食です。

 今回は主となる穀類・豆類の中から比較的短時間で調理のできる材料を炊いておき、そこへ季節の野菜を水煮し、ハンドブレンダーなどで汁状にしたものの中でこねるように混ぜただけのシンプル調理のお皿。トッピングを別に用意して、のせて楽しみ、混ぜて楽しみ、プチプチした穀類・豆類の自然の恵みを感じながら、咀嚼を楽しむ3皿をご紹介します。

 1品目は、ハダカムギを使います。長い間、イタリアでは消失していましたが、近年その栄養価の高さが見直され、Orzo Perlato(完全に精麦されたもの)の栽培出荷量は増加し、スープの浮き実やサラダ風にしてよく食べられます。

鮪キューブ炒めのせ、フェンネルのリゾット

Orzotto di finocchio con guarunizione di tonno saltato

材料:2人分が目安

  • Orzo(ハダカムギ) 200g(ウンブリア産なら浸水不要)
  • Finocchio(フェンネル・ウイキョウ) 大きいものなら1個(正味400g)
  • ゴジベリー(枸杞の実) 小さじ1~2(Bacche di goji)
  • 鮪 100g
  • レモン ½個、ニンニク 1片、オレガノ あればフレッシュなもの 2枝
  • 塩・胡椒 適宜
  • エキストラ・ヴァージン・オリーブオイル(以下EVOと表記する) 適宜

作り方:

  1. Orzoを茹でます。大鍋に多めの水を入れて沸騰させます。Orzoをそのまま投入し、35分間中強火でしっかり火を通します。噛んでみて完全に芯がなくなっていれば、ざるにあげます。(この状態で冷凍保存ができます。)
  2. Finocchioは、上乗せトッピング用に鮪と炒めますが、¼ほどを大きめのみじん切りにしてすぐにレモン汁をかけて色止めしておきます。残りはざく切りにして小鍋に入れて水をひたひたになるくらい加えて、中火で加熱していきます。15~20分くらいで柔らかく茹で上がったら、蓋をしたまま10分ほど蒸らします。これをブレンダーやミキサーで汁状にします。枸杞の実は、少量のぬるま湯で10分ほど漬けて戻し水切りします。絞った後のレモンの皮は、すりおろすなどしておきます。
  3. トッピングを作ります。鮪を1cm角切りにして、塩・胡椒をします。フライパンにEVOと潰したニンニクを敷いて、油が温まったら2.のFinocchioを加え3~4分炒め、ニンニクは取り出し、鮪を加えて中強火で表面を炙るように炒め、オレガノとレモンの皮を加えて香りをつけます。戻した枸杞の実も一緒に混ぜ合わせておきます。
  4. Finocchioの水煮汁を鍋(テフロン加工したものがベター)で温め、炊いておいたOrzoを加えます。塩・胡椒しながらよく混ぜて、水分を飛ばしていきます。少し硬めのリゾットくらいになったら、火を止めて盛り付けます。トッピングを載せて、一筋のEVOを垂らし完成です。

さて、2品目は20年ほどの歴史しかありませんが、栽培量は急上昇しているアジア原産の黒米とPadana平原のイタリア米の交配で新種のイタリア産Riso venereを使います。香味野菜と一緒に炊いておけばお米のサラダにも使え、ここではLattuga romana(ローメインレタス)とコンビを組ませて軽やかに仕上げます。トッピングにメロンのような香りの瓜でプーリア産の丸きゅうり(Barattiere)と呼ばれる野菜と黄ピーマンと青トマトと紫玉葱とをミックスし、さらに同じプーリア産でバッファローミルクから作られるStracciatella di bufaraやBurrataチーズを一緒にのせてみました。

プーリア産瓜とフレッシュチーズをのせたローメインレタス汁立てのリーゾ・ヴェネレ

Riso venere mantecato con acqua di lattuga,guarnizione di verdure e stracciatella pugliese

材料:2~3人分

  • Riso venere 250g
  • Lattuga romana  400g(約半個)
  • 香味野菜(人参、玉葱、セロリなど) 2~3cmずつ
  • 塩・胡椒 適宜
  • トッピング用:お好みの季節の野菜を3~4種、パセリとEVO、塩、胡椒 適宜、Stracciatella di bufalaやBurrata pugliese、糸唐辛子など

作り方:

  1. リーゾ・ヴェネレを細かな目のザルの中でさっと洗い、蓋つきの小鍋に入れみじん切りにした香味野菜と水を約1、3倍(330ml)加えて、初めはチョロチョロ、中はパッパッの要領で沸騰するまで中強火、そして弱火で火加減に注意しながら15~20分かけて炊いて、蓋をしたまま蒸らします。玄米ほど硬くありませんが、しっかり火を通さないと消化が悪くなります。
  2. ローメインレタスは流水で良くすすぎ、ざっくり刻みます。湯を沸かし、塩ひとつまみとレタスを加え、少しくたっとするまで茹でます。茹で汁少量と一緒にハンドブレンダーなどで汁状にします。
  3. トッピングを準備します。野菜類は細かな角切りにして、パセリと塩、胡椒をしEVOを回しかけてしっかり混ぜ合わせておきます。Burrataを使う場合は潰すように切って、冷蔵庫に置いておきます。1品目のOrzottoの要領で2.の野菜水煮汁を温め、1.の炊いたリーゾ・ヴェネレを加えて煮ていきます。塩・胡椒で調味して全体が一体となったら、器に盛りつけます。トッピングをたっぷりのせて、真っ白なチーズをのせると真っ黒なお米とヴィヴィットな野菜たちが、自然界の色のハーモニーを響かせるようです。

最後3品目は、豆類から鮮やかなオレンジ色が美しいLenticche Rosseを使ったクリームスープです。外皮が取り除かれ乾燥されているため、浸水して戻す必要がなくとても煮えやすいですが、食感が残るところまできたら一部を取りおいて、スープの下に敷き詰めます。クリーム状の上の層と豆粒そのままの下の層を優しく混ぜながらすくって食べるのです。季節物のカボチャも加えました。お好みで話題のウコン(Culcuma)や生姜のみじん切りを加え、風味付けます。

オレンジレンズ豆とかぼちゃの滑らかとつぶつぶ2層

Vellutata di lenticche rosse e zucca in 2 strati

材料:

  • Lenticche rosse decorticate  500g
  • かぼちゃ(Mantovana種が望ましい) 250g
  • ローズマリー 1枝
  • EVO、塩、胡椒 適宜
  • 玉葱、ボロ葱、人参、フェンネルやセロリなどの香味野菜 各3~4cm
  • お好みでウコン(生でも粉末のものでもどちらでも)、生姜みじん切り 適宜
  • 生ハム 人数分の枚数

作り方:

  1. オレンジレンズ豆は、さらっと水洗いして水切りします。かぼちゃは、皮をむいて1cm角ほどの大きさに、そして香味野菜はみじん切りにします。
  2. 鍋にEVO大さじ2を敷いて、香味野菜を入れて軽く炒めます。そこへオレンジレンズ豆を加え弱火でさっと炒め、かぼちゃとローズマリーも(ウコンも生姜もここで)加えてよく混ぜたら、水を先ずは1ℓ加えて煮ていきます。沸騰してきたら灰汁を軽く取って、約20分煮ていきます。途中水分が減って焦げ付きそうなら、水を少し足します。歯ごたえのある程度まで煮たら、塩・胡椒で味をしっかりめにつけます。下の層にする豆粒状のまま一部(全体の¼~⅓)を器に取り出し、残りは水分量に気をつけながらさらに5~10分煮ていきます。その間、生ハムを少量のEVOを敷いたフライパンなどでじっくり香ばしくカリッとするまで焼きます。焼けたらキッチンペーパーの上に取り出して、余分な油を吸収させます。
  3. 煮上がった2.をハンドブレンダーなどを使って、クリーム状に潰します。先に取り出しておいた下の層を円錐状におき、クリームスープを回し落とします。お好みで準備した生ハムを添えます。EVOを数滴落として出来上がりです。

                           I Piatti sono pronti,buon appetito!

                                                                                     《協力:後藤知美さん》