イカ墨のヴェネツィア風

         ~Nero di Seppia alla veneziana~

 

        世界一のイカ好きを魅了させたイカ忍術

 

世界の総水揚げ高の約半分を日本人が消費しているというリサーチがありますが、刺身・焼き物・炒め物・詰め物、その存在するお料理名を挙げていけばきりがないほど、イカは頻繁に食べられています。大人には酒の肴、子供にはおやつのスルメも奈良時代(8世紀)には普及されていたようですから、流石の「イカ様」です。

鮮度の良い内臓に生の身を漬け込んだ「塩辛」などは、世界でも類を見ません。1990年頃、イタリアンブームの到来でそんな日本人をもアッと言わせたイカ料理があります。「Seppia」(甲イカ)と言われる肉厚で柔らかく味の良いイカですが、このイカから取れる墨は、古代ギリシャから地中海沿岸部の一部では、染料や食用にされてきました。ムコ多糖類が、ガンに効くという研究結果が発表されたのと重なり、日本ではすっかり人気のメニューとして定着してきました。パスタや米料理、パンと絡める料理だけでは飽き足らず、本場イタリアのようにジェラートやパン生地に練り込んだりとイカ墨ブームは、決して後退することがありません。鮮度の良い墨は生臭みがなく旨味があるので、是非、生きのいい甲イカを手に入れたいものですが、袋詰めになった墨ペーストだって手軽な上、十分美味しいので是非お試しください。

 

材料:4人分が目安

  • Seppia 約800g イカ墨が付いていれば1ぱい分(処理済のものには、代用品に市販ペースト1袋4g入りx2袋)
  • 玉葱 1/2個
  • トマトピューレ 300g
  • 白ワイン 150cc
  • にんにく 1片、タイム 1枝
  • 乾燥オレガノ 一つまみ、ペペロンチーノ 1/2本
  • パセリみじん切り 適宜、塩・グリーンペッパー 適宜
  • エキストラ・ヴァージン・オリーヴ油(以下EVOと表記する) 適宜(コク出しにパルミジャーノチーズを入れても良い)

作り方:

  1. Seppiaは内臓を取り出し、墨袋を丁寧に剥がして器へ取り出しておきます。皮を剥いたら身の部分は海水程度の塩水の中で綺麗に汚れを落とし、水切り後エンぺラから足部まで食べやすい大きさにざっくりと切ります。
  2. キャセロールなどの平鍋へEVOを大さじ1強垂らし、みじん切りにしたニンニクを入れ弱火でじっくり炒めます。
  3. 2.へみじん切りの玉葱を加え透き通るまで炒めたら、微塵のペペロンチーノとSeppiaとハーブ類も入れて強火で軽く火を通す間、いか墨の袋から墨をしごき出し白ワインで溶きながらそのまま鍋へ加え水分を飛ばしていきます。
  4. トマトピューレも加えよくかき混ぜながら、とろみがつくまで炒め煮を20分ほどして、塩・胡椒で味を整えて火を止めます。
  5. 4.を再度よくかき混ぜて器を盛ります。EVOを一筋垂らし、パセリを散らして出来上がりです。このままカリッと香ばしく焼いたパンの上に乗せたり、パスタやリゾットのソースにしたりと活用できます。

さて、同じイカ墨を使ってもう一品。日本のCMで一躍脚光浴びたスペイン料理ですが、イタリアでも特にヴェネツィアの小洒落たリストランテで時折登場するのが、真っ黒なイカ墨を衣に練り込んでしまう揚げ物料理です。Baccala'(塩蔵たら)やCalamari(やりいか)を揚げる時に真っ黒々となるので、外観のインパクトが強い調理法と言えましょう。今回は、4~9月までが旬であるシーアスパラガス、日本では一昔前まで厚岸草と呼ばれていましたが、海水を栄養素とする砂泥地で自生する植物です。ローマでも運が良ければ魚屋さんでこの時期だけお目にかかれる貴重なミラクルフードなので、海水を吸収しているのに海藻とは違う歯触りのいい食感を味わってください。今回は、サクッと軽い仕上がりになるように米粉(farina

di riso)と米ぬか油(olio di riso)を使っていますが、小麦粉と普通の揚げ油でも美味しいです。

   スルメイカのイカ墨リング、シーアスパラガス添え

~Totani fritti al nero di seppia con asparagi di mare(salicornia)~

材料:4人分が目安

  • Totani(スルメイカ) リング状になったもの約400g
  • 衣(米粉) 約150g
  • 市販イカ墨ペースト 4g(1袋)
  • 凍る寸前の冷えたガス入りミネラルウォーター 220cc
  • 酢 小さじ2
  • 打ち粉として米粉を分量外に用意
  • 米ぬか油 適宜
  • Asparagi di mare 150g(一部を生食用にとっておきますが、共に硬い主軸は取り除いて流水の下よく洗い、水切りしておきます。)

作り方:

  1. 揚げ油を180℃まで熱します。
  2. 先ずは白い衣でasparagi di mareを揚げます。米粉は大きめのボウルに入れて、ここへミネラルウォータを注いで泡立て器を使って良く混ぜます。ここへ酢を加え、さらに混ぜます。揚げ油の温度が十分熱したら衣を落としてみて、すぐにそこから浮かびあがるようであれば、Asparagi di mareに打ち粉を満遍なくまぶし10枝くらいを束にして、衣を薄く通してから揚げ油へ落としていきます。サクッと揚がったら網の上で油切りをします。
  3. 次にTotaniもしっかりと水気を拭き取り、打ち粉を多めにふっておきます。残った衣へ大さじ1ほどの水で溶いたイカ墨を入れたらそこへTotaniをくぐらせて揚げ油へ落とします。(イカは、油はねしやすいので十分に注意が必要です。)しっかり目に火をとして油切りします。
  4. 器へ青々としたasparagi di mareの生とfritto、そして真っ黒の衣のイカリングを盛り付けて、こちらも出来上がり。

さてさて、2017年のローマの夏は、例年以上に猛暑に見舞われましたが、9月に入れば秋の気配も感じられます。そんな季節にぴったりの御馳走をもう一品ご紹介します。

イカ同様、私たち日本人の好物のタコです。南イタリアでなくても運が良ければ、新鮮な生ダコのcarpaccioを味わえるのですが、ローマの家庭では加熱して食べるのが主流です。近年、冷凍物を店頭で解凍した北アフリカ産の輸入物が多いのは、日本と似通った状況です。吸盤が1列の砂タコ系でなく、2列の岩タコ系(polpo verace)と言われる日本の真蛸のようなのを加熱後まだ熱いうちにカットしたタコをボトルへ押し込み、真空状態にして冷蔵保存すること数時間タコのゼラチン質で一体となり、それを薄くスライスすればリストランテでも良く食べられる素敵なアンティパストとなります。

      真蛸の真空ボトル固め

    ~Polpo verace in bottiglia~

材料:2~4人分が目安

  • Polpo verace(真蛸) 800g
  • タコの茹で汁 (水1~1、2ℓ+香草野菜:人参、セロリ、玉葱、トマト 各1/2個)
  • あればワイン(赤、白お好みで) 100cc
  • ginepro(ジュニパー・ベリー)と胡椒 各3粒
  • 月桂樹の葉 2枚 あればバジリコ 1枝
  • ワインのコルク(タコを柔らかく茹でるため) 1個

**材料はすべて揃えなくても可。

上掛けソース:トマト 小1個、赤または白ワインビネガー 大さじ2、EVO 大さじ1、       塩・胡椒 適宜

好みの添え野菜:今回は今が旬の紫キャベツとErba cipollina(シブレット)で栄養効果も抜群        に。

必要道具:1、5ℓのミネラルウォーターなどの丸型ボトルと肉叩き又はグラス、ラップ

 

 

作り方:

  1. Polpo veraceは海水程度の塩水の中でよく洗って、クチバシを取り除き汚れを落とします。
  2. タコがすっぽり入る鍋にタコの高さ程度の水とワインを注ぎ、残りの材料を入れて沸騰させます。
  3. 2.を中弱火にしタコの頭部をもち、足が外側へ均一に巻く様に茹で汁へ浸しては持ち上げるのを5、6回繰り返した後、全体を浸からせ鮮度と大きさにもよりますが中弱火のまま20、30分茹でます。
  4. この間、型となるボトルをくびれのあるところの下でカットします。3.のタコの祖熱がとれたところで足を胴から切り離し、頭部も4等分に切ります。熱いうちにこれをボトルへ詰めていきます。足部をボトルの円に沿って詰め、中心に隙間ができるので頭部で埋めるようにします。全部入ったところで肉叩きかグラスの底を使って、空気を抜くように圧縮します。茹で汁を高さ分だけごく少量注いだら、ボトルをその高さのところまでキッチン挟で均等の感覚で6~8か所切り込みを入れます。それを畳むようにして封をします。これをラップで包んで完全な真空状態にして、冷蔵庫で8時間以上休ませます。
  5. 上掛けソースを作ります。トマトを小さめのさい目切りにし、EVOをかけて一混ぜしビネガーも加えて混ぜます。塩・胡椒で味を整えておきます。
  6. 4.の固まったタコのボトルを切って外し、薄くスライスします。好みの野菜の千切りなどを敷いた上に、タコを広げソースを上掛けします。Erba cipollinaを散らしたら完成です。残った茹で汁は冷蔵保存しておけば、翌日に刻んだ紫キャベツとお米を炒めたところへ、温めなおしたタコ・ブイヨンを注いで20~25分煮れば、綺麗な紫き色のリゾットが楽しめます。

 

             ~I piatti sono pronti e buon appetito! ~

 

                              《協力:後藤知美さん》